2006.9月の先週のハイライト
06.09.07.
先週は、《住宅賞》の投票と発表がありました。
その結果、《ハルニレ賞》は、ミゴト、『森の家』に決まりました。
(ハルニレ賞2006←ノミネート時のレジメ)
投票は、ジャジャーン!22票中12票を得票しました。
過去3回次点というのは、たぶん、最多回数だと思いますが、
『4度目の正直』とは、なんとも、アルクムらしい受賞ではあります。
これでナントカ『巨匠(?)』の仲間入りが出来ました(笑!)。
本人は未だ、《フキノトウ賞》の候補のつもりでいるのですが・・・(笑!!!)。
昨年の《きらりと光る北の建築賞》に続く連続受賞に、身が引締まる思いです。
夜遅くまでの作業に頑張ってくれたスタッフや、
無理難題を聞いてくれた工務店や職人さん方は勿論、
聞いているのか聞いてないのか判らない打合せに辛抱強く付き合ってくれた、
すべての建主の皆さん方に、感謝の気持ちで一杯です。
《斉藤君のように清々しく、田中君のようにパワフルに!》をモットーに、
『歩くようにノンビリ』『空を舞うトンビのようにフラフラ』と、
アルク・無計画・工房は、気負うことなく設計を続けて行きたいと思います。
最新作の『ニセコ・Hハウス』の完成写真が出来上がったので、御覧下さい。
3間×4間の総二階のコンパクトな建物ですが、
2間×1.5間の二階建のバルコニーを付け、羊蹄山に向けて角度を振ったことで、
白樺林の中にスッポリと収まり、自然に融けこみながら、
存在感のある佇まいが感じられました。
←白樺林の中に建つ
←2Fバルコニー
内部は、土間と板の間によって使い分けをしていますが、
水廻り以外はワンルームになっているので、吹抜け越しの二階と相まって、
気持ちの良い空間を感じることが出来ます。
仕上げはいつもの通り、木と塗り壁の2種類です。
木の部分は色を着けず、白木のままにしているので、経年変化が楽しみです。
←居間から食堂・台所を見る
←吹抜から見下し
←2Fロフトと天井
06.09.13.
週末は、東京の大学で野球をしている次男坊の用事で、東京に行ってきました。
野球部の父兄会のような《智徳会》の集まりに参加してきました。
《東京六大学》の秋期リーグの開始に合わせての『激励会』でした。
今までは、遠隔地を理由に欠席していましたが、
全寮制の寮が、秋からの新築工事に伴い、
『一時、アパート住まいになるかも知れない』という息子の話が、
直前になっても一向に要領を得ないので、
この機会に事情を確認出来れば、というのが、本当の目的でした。
集会の前に、対慶応戦の応援をしたのですが、
早稲田に在学中には、休校になる早慶戦すら、
一度も応援に行ったことが無いダメ学生だったので、
本当に始めての神宮球場での、少しウシロメタイ観戦でした(因みに息子は立教です)。
残念ながら試合は、0対8で《陸の王者慶応》に負けてしまいました。
それでも青空の広がる球場でビールを飲みながらの応援は、最高の気分でした。
試合が終わり、それぞれの応援団の『エールの交換』があり、
清々しい気分で会場に向かいました
(余談ですが、私は、中学の時に応援団に入っていたのです)。
会が始まりビックリしたのですが、
なんと、全国各地から父兄が集まっているではありませんか・・・。
それも、夫婦揃ってという方が半数位いるのです。
100人チョットの部員に対して、80人以上の参加です。
各学年ごとの盛り上がりも大変なもので、
お互いのパートナーシップも、既に出来上がっています。
そこへ、『北海道から、初めて参加します』と言うのは、
とても勇気が要りましたが、皆さんに、心から歓迎して頂き、
知らなかった息子の話を聞かせてもらい、
とても楽しい時間を過ごすことが出来ました。
息子がお世話になっているマネージャーさん達ともお会いできました(デレー)。
肝心の寮の件は、地方出身者は優先的に、来年の3月までは、
立教高校の寮を開放してもらい居残れることになり、
引越はとりあえず無くなりました(ホッ!)。
次の日曜日は予備日だったので、前から行ってみたかった、
内藤廣君が設計した安曇野の《ちひろ美術館》に行きました。
東京から4時間もかかるとは思いませんでしたが、晴天に恵まれ、
『あずさ3号(2号ではないのが残念!!!)』に乗って、
カツサンドとビールの強力コンビに支えられ、快適な旅路でした。
信濃松川駅に着き、駅員に、
帰りの列車時刻の確認とちひろ美術館の行き方を聞いていると、
同じ列車で着いた女性3人(後から3世代だと判りました)の方から声を掛けられ、
タクシーの相乗りのお誘いを受けました。
駅前を見ると、タクシーは1台しか見当たりません。
有難く、ご好意に甘えることにしました。
車内で、私が建物を見に来たという話をすると、
お孫さんが建築に進もうとしたけど、娘さんの同級生に建築家がいて、
とてもお勉強が出来る方で、とても、あなたでは務まらないからと、
薬学の方に進まれた由。因みにお名前は?と聞くと、『團紀彦さんと言います』
ビックリして、『以前のスタッフの奥さんが彼の事務所にいて、
結婚する時に札幌にいらした時にお会いしました』というと向こうもビックリしていました。
もっとも、團さんは、作曲家:團伊久磨の息子さんで、
建築家としても有名な方なのですが、本当に《縁は異なもの》です。
3000M級の山々は、あいにく雲に隠れて見えませんでしたが、
安曇野の長閑(のどか)な田園風景を見ているうちに、ちひろ美術館に到着しました。
ユッタリとした駐車場に降りると、先ず正面に見えるのは、
中位の石で作られた大小様々な池と大きな1本の木と納屋のようなトイレでした。
池では、老若男女が、思い思いに、造られた自然と戯れ、
スラーの描いた《日曜日の午後》のようなユッタリとした時間が流れていました。
ユックリと視線を左に向けると、遠くの山並みに揃った美術館の屋根並みが見えてきます。
真直ぐ行けばスグなのに、いったん池に下りてから、
緩やかに曲がった坂道をのぼりながら玄関に向かいます
(この辺が、憎らしいけど、内藤君の真骨頂です)。
近隣の民家と同じ5寸勾配の屋根は、住宅に使う柱と同じ位の9cm×12cmの
小さな材料で組まれた木造トラスが60cmの間隔で架けられ、
なんと4間(7.2M)の大空間を確保しているのです(積雪地なのに、信じがたいです!)。
構造設計は勿論、志摩にある《海の博物館》と同じ渡辺邦夫氏ですが、
同じ木造トラスでも、荒々しく厳しい表情を見せた前回とは違い、
今回は、本当に繊細なスケールで、優しい表情を表現しているのです。
この辺りに、建築家と構造家の絶妙なコラボレーションを感じました。
その軽々とした屋根をくぐり美術館に入ると、中庭越しに、また同じ屋根が見えてきます。
同じ屋根と光の明暗を繰り返すことにより、色々な空間(トイレ・厨房・展示室etc)がたち現れ、
ある種のリズムが奏でられ、だんだんと、
優しくも懐かしい《岩崎ちひろ》の世界に浸っていくのです。
《海の博物館》で展開した《閉じる建築》が、同じ手法を使いながら、
ここでは《開く建築》に移行していることが判ります。
おかれた環境(海と山)の違いもあると思いますが、
それはまた、内藤君の心の変化でもあるような気がします。
美術館という閉ざされた機能は、大屋根とは別のフラットな箱の中で充足されています。
その関係は正に、アルクムの最近の住宅で展開している
『ハウス・イン・ハウス(家の中に家がある)』と同じような
『内と外を逆転させる』不思議な効果をもたらしているようです。
大屋根の下は、内藤君にとっては、きっと外なんだろうなー、と歩きながら想像しました。
コラボレーションといえば、使われている家具は、あの流行作家《中村好文》さんです。
彼の方からオファーして、家具のデザインをしたそうです。
その辺も、空気を柔らかくしている大事な要素だと思います。
歩き廻りながら、来る時に列車から見た
《茅野市民会館》の事が気になって仕方ありませんでした。
この建物も、早稲田の後輩の古谷誠章さんが設計コンペで勝ち取った作品です。
まさか、ここにあるとは思わなかったので、見る予定には入っていなかったのですが、
本格的な市民参加によって設計された、日本で初めての建物ではないかと、
勝手に決め、古谷さんの、ヌーボーとしながらも筋の通った、
そしてきっと、ウィットに富んだ作品に違いない、
いつかは見なくては、と思い続けていたのです。
それが、初恋の人のように、思いも懸けずに、バッタリ会ってしまったのですから、
気が気ではありません。
書くほうも疲れてきたし、きっと、読むほうも、お疲れの事と思いますので、
この後のことは、次回のお楽しみにしたいと思います(予告写真は見て下さい)。
06.09.22.
さて今週は、約束どおり、先週の続きをお送りします。
安曇野の『ちひろ美術館』を1時間の超特急で取材して、
信濃松川駅に戻ったところ、
駅員さんから、「あれっ、もう帰るの?」と言われてしまいました。
このスローな時代に、建築家とは、
本当に情けない人種だなー、と思いました。
途中、松本駅で乗り換えの合間に、折角だからと、
駅前の蕎麦屋で遅いお昼を食べ(信州の思いでは、これだけです、トホホホ)、
一路、茅野に向かいました。
『茅野市民館』の設計者の古谷誠章さんは、
早稲田大学の教授ですが、プロフェッサー・アーキテクトとして、
名作を創り続けている建築家でもあります。
彼は、地方に文化が根差すような建築を、
大学に身をおく建築家にしか出来ないやり方で創ることを、
自分の使命としているのです。
それを実践する為に、
設計のプロセスに《ワークショップ》を導入したのです。
すなわち、
実際に建物を使う人達と一緒に設計を進めることを実行したのです。
公共建築の発注者は行政ではなく、
使用者である住民だ、と明言した訳です。
それまでも、《住民参加》の旗印の下に、設計するケースはありましたが、
彼は、未来の使用者である子供達を引き込んで、ワークショップを開きました。
その結果、4年間の設計・監理の間に、百数十回も茅野市に通ったそうです。
ということは、週に1回、茅野市に出掛けた勘定になります(信じられない!)。
そうして出来上がった『茅野市民館(この名前も公募で選ばれたそうです)』は、
そんなトテツモナイ努力の片鱗も見せず、爽やかに・飄々と建っていました。
駅のコンコースから繋がる階段状の図書館は、
本を読む楽しさを充分に満喫しながら、
たくさんの人達に利用されていました(通路に面した図書館ですよ!)。
雑誌で見た時には『大丈夫かなー?』と思われたガラスのブース型のトイレも、
あたり前のように、周りのオシャレな風景に溶け込んでいました。
←図書館と通路
←ガラスブーストイレ
レストランやロビーも、市民のパブリックスペースとして認知されているようです。
小振りのギャラリーや常設展示室も、普段着で利用できる雰囲気です。
大・中、ふたつのホールはきっと、東京に行くのとは違った、
近隣都市の文化の発信基地として機能している事でしょう。
↑パブリックスペース
そんな、沢山の用途が集まった施設ですが、
それぞれの機能を形に表現しながらも、全体のバランスを取りながら、
美しい形になっているのは、流石です。
開いている図書館のスロープの下からチラッと見えるプラットホームの人影や、
逆に、プラットホームから
ストライプのガラス越しにチラチラ見えるスロープを移動する人影が、
とても現代的な風景として印象に残りました。
次の特急が車での1時間余り、古谷さんの優しい笑顔と、
張りのあるバリトンの素敵な声を思い出しながら、
ワークショップの成果を実感していました。
06.09.29.
2週続けて東京行の話でしたが、
すこし建築の話が多すぎたような気がします。
立教も明大に連勝して、勝ち点をゲットして、気を良くしています。
そんな中(どんな中なんだ!)、
旭川のSさんの家の上棟式が、先週の土曜日にありました。
現場の方は予定通り、9月の初旬に出来る状態でしたが、
色々なスケジュールの都合で、延び延びになっていました。
それでも、待った甲斐あって(?)、晴天にも恵まれました。
もうすぐお姉ちゃんになる2歳の会生(あおい)ちゃんの明るい声が、
温かな雰囲気を演出してくれました。
板の間で執り行われた式典に続き、
寝間には既に、直会(なおらい)の席が準備されるという段取りの良さの中、
滞りなく祝宴が開かれました。
祝宴には、Sさんの友人家族が二組、代表して、参加してくれました。
代表して、というのは、声を掛け始めると、限りなく輪が広がり、
収拾がつかなくなるので、今回の呼びかけは最低限にしたそうです。
この辺りにも、Sさんの交流の輪の広さが感じられ、
『大らかで開放的な』この家の計画の必然性を痛感しました。
ご夫妻のご両親も参列し、ナントも和やかで、賑やかな上棟式になりました。
若い人たちに囲まれながら、KT組のKT専務と久しぶりにお酒を一緒して、
時の経つのも、何を話したのかも忘れ、気が付いたらホテルのベッドの上でした。
きっと、専務とふたりして、若い人たちに、
説教めいたことを話したに違いありません。
アーァ、イヤダ!!! 本当に、歳はとりたくないものです。
それでも、次の日、澄み渡った青空の下でSさんの家を見ていると、
そんな事は忘れて、
これから決めてゆく内部の仕上や家具のことで頭が一杯になります。
昨年の4月に初めて会った時、会生ちゃんは、
お母さんの通訳無しには、お話できませんでした。
10月敷地が決まり、《古い木造校舎のような家》という共通のイメージが出来、
やっと形になった今年の1月、図面が完成した6月、そして7月の地鎮祭。
そして、今、やっと家が立ち上がり、
新しい生活が具体的にイメージできるようになりました。
会生ちゃんは、もう、通訳無しです。
そんな時、イヤーァ、歳をとるのも、悪くないもんだ、と思ってしまうのです。
06.09.28
☆河村レポート
先週の金曜日に「ギャラリー間20周年記念展・日本の現代住宅展1985−2005」の
オープニングで建築家小嶋一浩氏の講演会が道工大でおこなわれ、
模型の展示と合わせて見に行ってきました。
小嶋氏は、シーラカンス・アンド・アソシエイツ(C+A)という
設計事務所の代表で海外でも活躍されている方です。
講演のタイトルは、
「住宅の20年−住宅の設計にどこまでの飛距離を期待するか?」でした。
それは、住宅は公共建築等とは違い、
建主と建築家次第で可能性が広がり、
刺激を求められるところに面白みがある。
ということでした。
20年分の様々な建築雑誌をズラッと部屋に並べて片っ端から見ていき、
画期的で新しく刺激的なものが主に選出されているそうです。
講演の後半では、サロマを拠点に
新進気鋭の建築家五十嵐淳氏と対談形式でおこなわれ、
妹島和世氏の「梅林の家」を見学した感想を、
今までの住宅概念を破った画期的な建物の例として、話されていました。
活躍中の建築家がどんなことを考え、
興味を持って設計をしているのかが垣間見れる良い機会になりました。
←講演会の対談の様子
展示会場は、いくつかのスケールで断面模型、外観模型、敷地模型が
123住宅展示され、それぞれ個性豊かなオーラが感じられました。
←断面模型
←断面模型外観(表側)
←断面模型内観(裏側)
←敷地模型と外観模型