2008.6月の先週のハイライト
08.06.04.
先日(4月24日)に東京に行った時に見た、展覧会のことをお話しします。
六本木にあるGALLERY・MA(ぎゃらりー・間)に、
《杉本貴志:鉄の茶室・水の茶室》展を見に行きました。
5月31日までの開催だったので諦めていたのですが、
急用が出来たのを幸いに、見に行くことが出来ました。
会場に入ると、いきなり鉄の茶室が目にとびこみ、度肝を抜かれます。
スチールの既製品のネットやパネルを壁に見立て、
茶道具一式と一輪の花だけで、茶の空間を構築しています。
もちろん、天井や建具などの建築的な要素は一切ありません。
見立てられた壁は、写真のように透け透けですが、
外から(とはいえ、そこも室内ではあるのですが・・・)見る内部は、
透け透けな筈の壁にもかかわらず、強い結界を感じるのです。
一方、内部に入り、床に座るやいなや、
小宇宙の広がりの中で解き放されたような浮遊感を感じました。
まさにそこは、《茶の湯の空気》で充たされているのです。
『鉄の茶室』を出てから、
一度、中庭を雨の中、二階の展示会場に向かいます。
さっきまでの緊張感が、雨に打たれて解き放されるのが判ります。
閑話休題:その中庭は、スケールはぜんぜん違いますが、
安藤忠雄の『住吉の長屋』のパクリ
(安藤さんが顧問をしているギャラリーだからいいのかな?
まさか、安藤さんの設計ではないと思うけど・・・)なので、
雨の日にトイレに行くのに傘を差す気持ちが良くわかります。
これはこれでいいと思いますが、
歳をとると、(もうカナリとっていますが・・・)キツイと思います。
話は戻って、二階の展示場のドアを開けると、
暗闇に一瞬、目を奪われ何も見えなくなり(変な表現とは思いますが)、
思わずステップに足を取られそうになりました(アレは危ないですね!)。
目を上げると暗闇の中に《光の粒》が蠢いているのが見えてきます。
それも、無数の粒が、等間隔で下降しているのです。
《幻想的》という言葉をカタチにするとコウなんだ!と、心の中で呟きました。
しばらく、呆然と立ち尽くしていると、
他にも、立ち尽くしたり、
古材のベンチに座り尽くし(?)ている人たちが数人いました。
何人かの人たちが『水の茶室』の中で、
それぞれの立ち振る舞いをしていましたが、
映画のシーンを見ているような感じです。
]
《虚と実》《闇と光》《自と他》《時と空》様々な対比が脳裏を駆け巡ります。
やがてそれらが融合して《一つの質?》になっていくような、
なんとも表現できない、生まれて初めての摩訶不思議な体験でした。
インテリアと建築の一番大きな違いが、少しわかったような気がしました。
現実・合理・趣味・時間・重力etc.から、どれだけ解放されるか?
と、それらをどのように矛盾無く統合するか?
の違いは、とても大きいと思います。
そう考えると、
インテリアデザイナーにならなくて良かったと、正直思います。
『予算がない』『時間がない』『法規がわるい』などと、
愚痴をこぼすのは止めにします。
それらを《どう調整するか?》で生計を立てているのですから・・・。
08.06.23.
美瑛の薫風舎さんから紹介していただき、
2005年の11月に初めてお会いし、
2006年5月に、十勝清水の土地・建物を入札により入手して以来、
2年半の長期にわたるプロジェクトが、ついに、完成しました。
建設工事も、8ヶ月時間をかけ、ユックリと進めることが出来ました。
オーナーの御家族のKさん方はもちろん、
建設会社のON建設のO社長と現場担当のNさんも、
ほんとうに、ほんとうにご苦労様でした。
おかげで、《和みの風》という名前に恥じない、
ユッタリとした空気の漂う、心地よいペンションが出来上がりました。
2年半、という月日は、
設計という仕事の枠を超えた思い出が脳裏をよぎります。
ちょうど2年前の夏、
ファーム富田で恥しがり屋の風詩(フウタ)君と始めて会い、
とても楽しい時間を過ごしたのが、
昨日のことのように思い出されます。
また、帯広から研修で来札したKさんと、
お寿司屋さんでお酒を飲んだのも、楽しい思い出になっています。
どちらもまだ、建設地が決まっていなかった、ということは、
設計が始まる前のことだった訳ですが、
出来上がった建物のイメージの延長線上の記憶と繋がっているのは、
考えてみると不思議なものです。
昨年の夏には、融資の決定後、
見積調整と契約いう一番大事な時期に、母親の看病で東京に行き来し、
看護士をしているK夫妻には、
何かと貴重な助言と励ましの言葉を掛けて頂き、
心強く思うと共に、申し訳ない気持ちで一杯でした。
その他にも、いろいろな困難(HP:2007/10/16参照)もありましたが、
工事を請け負ってくれたON建設の、
真摯な中にもホノボノとした雰囲気を持った社風に助けられ、
何とか乗り切り、着工にこぎつけました。
(着工前の外観(写真三枚))
工事が始まっても、
壊しているのか作っているのか判らない状態が続きましたが、
木製窓が付き、断熱補強が進むと、
ドンドン熱環境が良くなっていくのが実感できたのは、新鮮な経験でした。
(《和みの風》HPのブログ参照)
今回は、初めから実物大模型があるので、
打合せはとても具体的に進めることができました。
とくに、バリアフリーからユニバーサルの世界に進化させる対応は、
作業療法士をしているKさんの友人夫妻に、何度も現場に来ていただき、
意見を戦わせながら決めることが出来ました。
これもリフォーム工事ならではのことだと思います。
テーマは『病院らしく無くすこと』です。
Kさん夫妻も含め、皆さん病院の関係者なので、
余計、《和みの風》と《病院》の距離をおきたかったのかもしれません。
障害のある方に、障害があることを忘れていただく為のペンションだから・・・。
工事が進み、最終の形が見えてくると、
それまではそれほど、積極的に打合せに参加していなかったK夫人が、
『ここはどうなるんですか?』『ここはこれで終わりですか?』などと、
質問が多くなってきました。
色彩の打合せも、みんなで、
『アアだ、コウだ』『アアでもない、コウでもない』と喧々諤々、
打合せをしているうちに、
K夫人の『コレ!』の一言で決まることもしばしばでした。
そのうちに、『いま、家具屋さんにいるんですけど、良さそうな家具があって、
今なら安くしてくれるそうなんですが、どうしましょう?』という電話が掛かり、
『出来れば、写真をメールしてください』とお願いして、
写真を見てから購入するような機会が増えてきました。
そのブレのなさは、見事でした。
それを見て、私が20年ほど前に、
ベルギーのブリュッセルでインテリアの相談を受け、
何から手をつけていいか皆目判らなかった時に、
たまたま、蚤の市で見つけた花器が気に入り購入し、
その花器にあわせてインテリアをコーディネートした時のことを
懐かしく思い出しました。
(ブリュッセルのインテリアの写真5枚)
《和みの風》のインテリアも、
家具屋さんで出会った椅子から始まったような気がします。
いや、その前に、
お気に入りの美瑛の《貴妃花》さんの作品のコレクションに『種』が潜んでいた
というのが正解かも知れませんね。
そんな訳で、後半は、加速度的に設計の密度が高くなり、
当初のスケッチの何百倍も好い雰囲気になっていきました。
これも、間接的にはリニューアル効果と言っていいかもしれません。
なぜかというと、
一昨年の秋から1年半、ココと帯広を行ったり来たりしているうちに、
ココの空気感が、知らず知らずのうちに身に付いていたと思うからです。
まずは、みなさんも、自分の目で確かめに、
十勝清水の『和みの風』を訪れてください。
キット、満足するはずです。